Croissant de Lune
★ こころで描く 絵のない絵本 こころに優しい物語 ★
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N゜50 子ぎつねルナと虹色の風船 <後編>
仕事を終えたコウノトリが海の上を飛んでいると、風船がふんわりゆらゆら目の前を通り過ぎて行きました。
コウノトリは風船を追いかけ、尖った口ばしで突きました。
パーンっと大きな音がして、風船は割れてしまいました。
風船の中に入っていたルナの手紙は、ヒラヒラと落ちていきました。
岸に向かって泳いでいた海ガメのおじいさんは、大きな音に驚いて空を見上げました。
何が起きたのかとしばらく眺めていると、くるくると回転しながら何かが落ちてきました。
ルナの手紙は、海ガメのおじいさんの甲羅の上に落ちました。
岸に辿り着いた海ガメのおじいさんは甲羅に張り付いている紙を手にとり、そこに書かれている手紙を読んで、目を細めました。
「名前が書かれておらんが…。ははーん。こりゃルナじゃなぁ。」
海ガメのおじいさんは、ルナの住む森を見上げました。
その頃ルナは、窓辺に肘をかけ、ぼんやりと空を見ていました。
「お返事、来ないわねぇ。やっぱり名前を書かなかったからかしら?」
ルナは、手紙の返事が来ない理由をあれこれ考えていましたが、また書き始めました。
「考えていたって、お返事はこないわよね。」
手紙を拾ってくれる誰かに向けて、今度は、きちんと名前を書きました。
ルナは、来る日も来る日も、風船が返ってくるのを待っていました。
返事はちっとも返って来ませんでしたが、それでもルナは、自分の好きなものや、森の好きなところ、海ガメのおじいさんから聞いたお話やルナのおばあさんから聞いたお話を毎日書き続けました。
そして、ルナの風船は、とうとう最後の1つになってしまいました。
窓を開けると、山の上の方に灰色の雨雲がいすわっていましたが、ルナは最後の風船に手紙を入れ、思いを込めて空に向かって飛ばしました。
「どうかお返事が来ますように。」
大きな木の枝の上で、居眠りをしていたフクロウの頬を、風船が掠めて行きました。
片目を開けてちらりと風船を見ると、また居眠りを始めました。
微風が吹いて風船が葉の生い茂る枝にあたり、またフクロウの頬を撫でました。
チッと舌打ちをして、フクロウは目を開けました。
そして、ゆっくりと風船を捕まえると中の手紙を読みました。
完全に目を覚ましたフクロウは、目をパチクリとし、飛び立ちました。
フクロウが森の中を飛び回っていると、1つ、2つと風船が見えました。
しばらく飛びまわっていると、また1つ…、2つ、3つ…と風船が見え、森の広場には、たくさんの風船が集まっていました。
森の仲間達が、風船とルナの手紙を手に手に持って集まって来ていたのです。
「もういいんじゃないか?」
「ルナのせいじゃないじゃないか。」
「元々フクロウの勘違いだったんだろ?」
「海ガメのじいちゃんもそんなこと言ってたぞ。」
「そうだよなぁ。」
「キツネの一族は悪くないぞ。」
「そうだよなぁ。」
森の仲間たちの話を聞くうちにフクロウは、大きな声で森の仲間達に話しかけました。
「僕、迎えに行って来る。」
森の仲間達は、いっせいに上を見上げ、フクロウを見ました。
「僕が、ルナを迎えに行くよ。」
そう言うと、フクロウは一目散にルナの家に向かいました。
ルナの家の前で、フクロウはためらっていました。
なんと言ったらいいものか、さっぱり分からなかったのです。
そうこうしているうちに、ルナのおばあさんがドアから顔を出しフクロウに声をかけました。
「おやおや、めずらしい。ルナを迎えに来てくれたのかい?」
フクロウは、目をまんまるにして、何度も首を縦に振りました。
ルナのおばあさんは、ちょっと待ってねと微笑みながら言うと、ドアの向うに消えて行きました。
フクロウがもじもじしながら待っていると、不思議そうな顔をしたルナが、ドアから顔を出しました。
「ぼ、僕、迎えに来たんだ。」
「私を?」
「一緒に広場に来てくれる?」
ルナは、なんだかわからなかったけれど、わくわくした気持ちでフクロウについて歩き始めました。
森の広場に近づくと、たくさんの風船が見えてきました。
そして広場には、森の仲間達が、ルナの風船と手紙を持って笑っていました。
「僕達、手紙を受け取ったよ。」アライグマが言いました。
それに続いて、リスもサルも、ウサギやタヌキやクマも、「僕も貰った。」「私も貰った。」と手紙を高くかかげました。
「僕達、みんな仲間だね。」
ルナは、胸がいっぱいになりました。
海ガメのおじいさんから聞いた素敵な瓶のお話はやっぱり素敵なお話だったと嬉しくなり、大きな声で答えました。
「みんなどうもありがとう。」
森の仲間達は、いっせいに風船を放し、ルナの方へ駆け寄りました。
山の上で降っていた雨もあがり、空には大きな虹の橋が出来ていました。
ぐんぐん空に上がっていったルナの風船は、虹の橋を渡り、いつまでも虹色に輝いていました。



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N゜49 子ぎつねルナと虹色の風船 <前編>
子ぎつねのルナは、海からの帰り道、真っ直ぐに伸びた木立の間を抜け、
くねくねと曲がりくねった森を駆け、一目散に家までの道を急いでいました。
危ないから一人で海まで行ってはいけないといつもお母さんに言われていたけれど、こっそり家を抜け出しては、海がめのおじいさんのお話を聞きに出かけていました。
今しがた、海ガメのおじいさんから、浜辺に辿り着く瓶の話を聞いたルナは、
いてもたってもいられず、さよならを言うのもそこそこに海を後にしました。
家に辿り着いたルナが、「ただいま!」と風のように居間を突っ切ると、
椅子に腰掛け新聞を読んでいたおばあさんの新聞がひるがえりました。
おばあさんが、めがねを下ろし、おかえりと言った頃には、ルナは、すでに自分の部屋のドアを閉めたところでした。
「おやまぁ、相変わらずおてんば娘だねぇ。」
おばあさんは、微笑むと、めがねをかけ直して、新聞に目をやりました。
ドキドキしている胸に手をあてながらルナは呟きました。
”なんて素敵なお話だったんだろう。”
そして、海ガメのおじいさんの話を思い返しました。
『この浜辺には、瓶に入れられた未知なる友からの手紙が届くんじゃよ。』
ルナが、誰に届くの?と聞くと、海ガメのおじいさんは、
『そりゃあ、その瓶を拾った者に届くんじゃよ。』と笑いました。
ルナが、こんなに胸を躍らせるのには、理由がありました。
ルナのおじいさんが、まだ子供だった頃、となりの山から金色の狼が現れて、
たくさんの森の仲間が襲われました。
その時、去っていく金色の狼の後姿を木の枝の上から見ていたフクロウが、
金色の毛を持つルナ達きつねの一族を狼の仲間だと勘違いしたのです。
これは、一大事とフクロウはリスに話し、リスがサルに、サルがアライグマに話し、一夜にして森の仲間に広まってしまいました。
それ以来、大きな一つの家族だった森の仲間は、すっかりバラバラになってしまいました。
その後もルナのおかあさんやおとうさんたちが、どんなに違うと話をしても、語り継がれてしまったお話を消すことは出来ませんでした。
その内、きつねの一族は減ってきて、ついに、ルナの家族だけが森に残りました。
ルナは、おばあさんから、このお話を何度も聞いていましたが、どうして、森の学校のみんなが仲良くしてくれないのか、いじわるをされるのか、どうしてもわかりませんでした。
机に向かったルナは、手紙を書き始めました。
字を習い始めたばかりのルナには大仕事でしたが、一生懸命書きました。
【 おともだちになってください。おへんじお、まちます。 】
ルナは、鉛筆をくわえながら、名前を書こうかどうしようか考えましたが、
書きませんでした。
手紙を書き終わったルナは、お誕生日に家族が用意してくれた風船を大切にしまっていた箱を出してきて、風船の中に手紙を入れ、思い切り息を吹き込みました。
そして、窓を開け、風船を青い空に放ちました。
風船は、追い風を受けて、ふんわり空を泳いで行きました。
「誰かに届きますように」
どんどん小さくなっていく風船を、ルナはいつまでも見つめていました。
~ 後編に続く ~



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